
着るだけで気持ちが晴れやかになる......そんなお気に入りの服はできるだけ長く楽しみたい。日々のケアも重要だが、半年近くお休みする「衣替え」にも注意を払うことが大切だ。うっかり手入れを怠ったばかりに、シーズンが来て開けてみたら、虫食い、変色......なかにはカビ!などといったアクシデントに見舞われるかも。注意して手入れをすれば、衣服は意外に長持ちする。どこに注意すればいいかは、"キレイ"のプロに聞くのが一番!ということで、クリーニング業界最大手の株式会社白洋舍を訪問、"キレイ"を保つコツや、衣替えの注意点について話を聞いた。
生地や服によっていろいろな「キレイの道」があることを知るのが第一歩

お気に入りを長く大切に着るための基本中の基本は「清潔」と早川さん、谷村さんは声を揃える。
「衣服は、最初に封を開けたときから人の体や周囲の環境の汚れにさらされます。避けようがないことですが、汚れを落として清潔さを保てば、お気に入りを長く着ることができます」。
言われてみればその通りだが、プロからの言葉だと「きれいにしよう」という決意も高まる。清潔に保つための、生地や汚れの質にあったベストな汚れ落としの方法はいろいろあるとのことだが、まず自宅での洗濯かクリーニング店にまかせるかという大きな分かれ目がある。
「水洗いできるものは自宅での洗濯。それ以外はクリーニング店でと考えるとわかりやすいかもしれません。その判断は、衣服に付いている『取扱い表示』、一般には洗濯表示と呼ばれている小さなタグで確認できます。水洗いOKのマークがあれば、ご自宅の洗濯機で問題ありません。ただ、ワイシャツやブラウスなど、きれいな仕上げが欠かせないものもあります。仕上がりにも高品質を求められるのなら、クリーニング店に出された方が美しい仕上がりを期待できます」
衣服を裏返すと付いているタグには、洗濯方法がいろいろ記載されている。きれいの第一歩は、このタグの確認からということだ。また仕上げもプロならではのクオリティーがある。同社にはガーメントフィニッシャーという衣服の形状に合わせた仕上げができる機械もある。
「スーツの肩まわりのカーブなどは、アイロンによる平面的な仕上げでは難しい。プロのアイロンかけならまだしも、一般の方には型崩れが少ないクリーニングをおすすめします」。
一部の家庭用洗濯機にあるドライモードは、「優しい水洗い」という水洗いの1つの方法であり、勘違いされやすい。クリーニング店が提供するドライクリーニングとはまったく違う洗浄方法なので注意が必要だ。
※消費者庁は、取扱い表示についての詳細情報を提供している。
http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/laundry_symbols.html
ドライクリーニングだけでも方法は10通り以上!汚れの元を知り、最適の対処を

クリーニング店に出すか否かの判別のイメージはついたが、どのお店に出しても同じなのだろうか?
「白洋舍では、ドライクリーニングと水洗いの両方に対応しています。ドライクリーニングでは、利用する溶剤、洗剤、処理方法などの違いからいくつかパターンがあり、素材や汚れの具合によって私たちの技術者がベストの方法を選びます」。
まず確認するのは汚れ具合。ちなみに汚れといっても衣服に関係あるのは、大別すると、「汗」「皮脂」「ちり/ほこりなど環境汚れ」の3つだという。これに食事中のハネ飛びなどのシミが加わる。
それぞれの汚れの特徴は以下の通り。
- 汗や飲み物=水に溶けやすい
- 皮脂、食事の油=水に溶けにくい
- ちり/ほこり=水にも油にも溶けない
「ワイシャツなどは汗の汚れが多いので、水洗いが中心になります。弊社工場では、ワイシャツ素材に適したオリジナル洗剤を使い、温度の違うお湯で2度洗いしています。ウールや絹製品は、水洗いすると色落ちや縮むことがあるので、一般的にはドライクリーニングでおこないます。品物ごとに最適な洗い方を選択します。
ちりやほこりは、はたくといった物理的な振動で落とすのが基本です。実際は、ドライクリーニングや水洗いの工程で、振動を与えて落とすようにしています。
最近、酵素入りの洗剤が販売されていますが、私たちも酵素を使った洗剤を利用しています。ただ家庭用は、低温の水で作用する酵素を使っています。家庭という環境を考えると、低温の水でも効果を期待できる酵素を使わざるをえない。でも私たちは、温水などを使って、より酵素の力が発揮できる環境で洗浄することができます。酵素という部分では同じですが、洗浄能力は大きく違います」。
同社はさらに毛皮にも対応している。実は毛皮は水洗いもドライクリーニングもできない難しい素材なのだ。そのためにとうもろこしの芯の粉に溶剤を染み込ませ、この粉を毛皮にまぶして洗浄する「パウダークリーニング」という独自の方法で対応。加えて毛皮は熱にも弱いので、乾燥や仕上げは温度管理を通常より厳しくして風合いや色が変わらないようにしている。
クリーニングは預けてしまうと、具体的に何をおこなっているか見えにくいサービス。しかしよくよく聞いてみるといろいろな方法があるようだ。
衣替えの失敗のほとんどは、洗わずにしまったこと。エリの黄ばみは皮脂の酸化が原因

「衣替えの基本は、洗濯やクリーニングできれいにしてからしまうことです。最近は、衣替えで出した服を、着る前に洗濯やクリーニングに出される方もいらっしゃるのですが、やはりしまう前にきれいにしたほうが良いです。それと、注意したいのは湿気。湿度が高いとどうしても衣服に水分を含んでしまうので、できれば晴天が数日続いたような、空気が乾燥している日にしまって蓋をするほうがいいですね。
しまうときも、上のほうに湿気に弱いウールやカシミヤといったニット類を、その下には綿製品などのトレーナーとかスエットがいいでしょう。湿気は下に溜まりますので、下には湿気の影響を受けにくい素材の衣類を置きます。また、クリーニング後の透明の袋は必ず取ってからしまってください。袋があるとそこに湿気が溜まって、衣服に悪影響を及ぼす原因になるのです。
ウールやシルクをしまうなら、防虫剤はぜひ入れてください。虫食い被害は昔よりは減りましたが、それでもゼロになったわけではありません。半年後に蓋を開けたら穴が空いていたのでは、ショックも大きいですから」。
虫の多くは、屋外に干した洗濯物に付いて室内に侵入し、卵を産む。幼虫は、動物性の繊維や汗や皮脂が大好物なのだ。6月~9月が繁殖期なので、春にしまったウール・シルク製品が幼虫のエサになる。防虫剤はぜひ活用してほしい。特に衣服保管用のポリケースなどは密閉性が高いので防虫剤の効果を維持できる。クローゼットにぶら下げるタイプは、クローゼットの開け閉めによって防虫効果が外部に逃げてしまうので注意が必要とのこと。
「洗濯してからしまったのに黄ばみが目立ってしまったというお話も聞きます。黄ばみは皮脂の酸化が原因。皮脂は油汚れなので家庭の水洗いだけで完全に取るのは難しいのです。衣替えでしまうと半年近く保管状態になりますので、白が目立つものは水洗い可能でもクリーニング店で皮脂汚れをきれいに落としてからしまう方がいいでしょう」。
また匂いが気になるとしたら、洗浄しきれていなかったことが理由かもしれないという。
「皮膚には、皮膚や体を守ってくれる常在菌がいます。これらは体に害を与えるものではありません。ただ彼らは皮脂などの体の汚れを餌に繁殖しています。衣服のいやな匂いというは、ほとんどの場合、この常在菌が繁殖するときに発する匂いなんです」。
汗に濡れた衣類を洗濯カゴに中にポーンと放り込んでほうっておくのは厳禁とのこと。この湿気と適温の洗濯カゴは、常在菌の繁殖にベストな環境だそうだ。匂いが繁殖しないように気をつけよう。
食事中に付いたソースはすぐ拭かないほうがいい?

衣類の着用後の汚れについての知識は理解が深まったが、応急処置については、どうすれば良いのだろう?
「よくお問い合わせがあるのは、醤油やソースなど調味料のハネへの応急処置についてですね。醤油の場合は乾いたタオルや紙で押さえて、シミをなるべく吸い取らせます。ここで注意してほしいのは、押さえるだけでこすらないこと。こすると生地を痛めたり、毛羽立ったりしてしまい、シミは取れたものの、(生地の)風合いがそこだけ変わって逆に目立ってしまうこともあります。また、おしぼりやウェットティッシュには水以外の消毒成分が含まれていることも多く、それが変色の原因になるので避けた方が無難です。基本はティッシュペーパーの使用ですね。
ある程度取れたら、醤油が付いた衣服の取扱い表示を確認し、水洗いできるのならシミの下に乾いたティッシュを敷き、上から水に濡らしたティッシュで叩いて、シミ汚れを下の乾いたティッシュに移すようにします。水洗いできない衣類でこの作業はおこなわないでください。
油脂分が多いソースなどはその場では触らず、帰宅してから中性洗剤などでもみ洗いするといいでしょう。その場で応急処理しようとして水をつけた布などで拭くと、かえって汚れが広がってしまいます。
急な雨で衣服が濡れてしまった場合は、乾かすしかありません。スーツやコート類は日陰で乾燥させましょう。スラックスは、逆さまにしてクリップハンガーで吊るすのがベスト。でも裾がびっしょりと濡れてしまっているようなら逆に最初はウェストを上にして乾かします。裾の水分の重さでスラックスが引っ張られます。裾が乾いたら逆にします。すると、ボリュームがあるウェストの重さで下に引っ張られてシワになりにくくなります。日光に当てるなどして急速に乾かそうとすると日焼けの心配もあります」。
ファー(毛皮類)の場合は、本物でもフェイクでも自然乾燥がマスト。温風のドライヤーを当てる人がいるが、熱はファーを傷め、フェイクファーは縮んでしまうというので注意したい。
年齢にもよるが、人間の皮膚は新陳代謝によって1~2ヵ月ですべての細胞が入れ替わる。つまり日々古い細胞が廃棄され、新しい細胞が生まれていると考えてよい。この廃棄される細胞の多くがタンパク質として衣服についてしまう。一度袖を通したら汚れがつくのは当然かもしれない。目に見えない、匂いがしないからとって、汚れていないわけではないのだ。面倒だったり、忘れがちな衣服の洗浄だが、大切なものは大切に扱うという基本を思い出して、ていねいに扱うようにしたい。
取材・執筆:Takash Y
■取材協力:株式会社白洋舍